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February 02, 2011

まつもとあつし『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』アスキー新書

Imgp6807読んだ本は書かないと忘れてしまうので、たとえ稚拙でも書評することにする。

いささかセンセーショナルなタイトルではあるが、メディアに携わる人にとっては身につまされる話がとても多い。

冒頭は『文化通信』の編集長、星野渉氏へのインタビュー。星野氏によると、良くも悪しくも出版社をここまで生きながらえさせているのは取次の存在である、という。取次の前倒し入金があることで、本が流通さえしていれば(たとえ売れなくても)自転車操業でお金が回るシステムが出来上がっているからだ。星野氏は、取次がなくなれば日本の出版社の半数は倒産する、とまで断言する。確かに…。

とはいえ出版業界に希望が失われたと言うことではない。「日本の出版社の強みは、エージェントを介す海外の出版社と比較して、著者と直接やりとりをする、その距離の近さです。したがって、権利を死蔵させるのではなく、著者と密にコミュニケーションをとって、著作物、つまり権利の再活用を積極的に図ることが本来できるはずなのです」(47)という。やはり、ワンソース・マルチユースが基本ということだ。となると、著者との利益配分において明確な基準を設けておくべきだろう。

また、電子書籍の将来像については、これまでの雑誌をiPadやAndroidのタブレットで“見られる”ようにするだけでは普及はおぼつかない、という。これまでの雑誌は様々な記事やコンテンツがひとまとめにされて販売されてきたいわゆる“バンドル型モデル”だが、ネットの世界では「目的のコンテンツだけをピックアップし消費していく」(42)。したがってアンバンドル(分解)された形での提供を前提とすべきと説く。

この主張は理解できるのだが、分解されることで、課金することの必然性も同時に失われるのも事実。じっさい、ブロガーによる良くできた試乗記や分析記事もあり、そこでプロフェッショナルとアマチュアを分ける境界線は単なる筆者の知名度に依存することも多いからだ。

あと個人的に関心をもったのはニワンゴの夏野剛氏のインタビュー。特に原価の考え方において、次の発言がずしんと来た。「コストを抑えるのではなく、『何がコストでかかるとき、どんな収入があがるのか』という収入とコストのバランスを皆に意識付けさせる会議をしています。…そういった新しい取り組みへのスピードを落とさないまま黒字にするというのが、目標だったんです」(186)。分かっちゃいるけど、目先の収益を考えると、開発投資を抑えて利益を確保するみたいな流れになりがちだが、それでは成長は見込めないことはわかりきったこと。

いま置かれている環境を鑑みると、成長のエンジンを常に求めていなければならない状況にあるということは、しんどいことでもあるがスリリングでもある。ガスペダルを踏むのが早すぎれば(=体力に見合わぬ投資をして)スピンしてガードレールに突っ込むし、逆に踏むのが遅ければ(=タイミングを逸すれば)後ろのクルマに抜かれてたちまちのうちに置いて行かれる。このスリルを楽しめるかどうかが、この業界に向いているかどうかを図れる指標なのでは、と思ったりもしている。

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