My Favorite Discs 2012
また例によって年が明けてから時間が経ってしまいましたが、2012のベストを。自分がすっかりおっさんになってきたこともあって、かなりベテラン勢も強いですが、taico clubやフジなどのフェスがらみでニューカマーもそこそこ聴いた印象。80'sのエッセンスを取り込んだエレクトロ志向は昨今の傾向ですが、ノエルのようなあんがいオーセンティックなロックもまだまだ惹かれるというのを再確認した次第。
●Eli Walks『Parallel』(2012)
エイフェックス・ツインの耽美さとオウテカのカオスっぷりをミキサーにかけて2010年代エレクトロのポップさをスパイスとして効かせたのが本作。身体を突き動かすと言うよりも聞き入らせる種類の音楽なので、好き嫌いは分かれそうでもあるけれど、旋律のセンスは天下一品。脳裏にこびりつくループは中毒性に満ちている。フジのレッドマーキーで繰り広げた爆音アンビエントはとにかく圧巻だった(客はほとんどいなかったけれども…)。ひさびさに日本から「鬼才」という形容が似合うアーティストが登場した。
●Orbital『Wonky』(2012)
Orbitalは、ミッドテンポ・4つ打ちが控えめな軽めのキック・少々おおげさなリバーブ、そして教会音楽にも通じる荘厳な電子音といった、いかにも欧州の80年代テクノの雰囲気が持ち味のユニット。最新作の本作は1曲目こそ過去の曲をなぞってはいるけど、中盤にかけておそろしくテンションが高まっていく。
ピアノの旋律を基調にした"Straight Sun"から、教会音楽のように荘厳な調べに引き込まれる“Never”をピークに、だんだんとアクの強いテクノサウンドへ変化していくというのも、明らかに計算づく。エレクトラグライドでは、彼らの毒っぷりがたっぷり堪能できる"Wonky (feat. Lady Leshurr)"が大盛り上がりだった。
●Four Tet『Pink』(2012)
エレクトラグライドに出演ということで購入。シングルをまとめた日本向けの企画版だけれど、オリジナルに匹敵する統一感はある。のっけから執拗なまでに繰り返される音数の少ないループと、叙情性に磨きのかかったダウンビートがズシーンと耳に響く。エイフェックス・ツインのアンビエント作を意識したであろうというのは、3曲目の"Jupiter"をはじめとして随所に感じられる。ライブでは妙に攻撃的になるというギャップもなんとなく似ている。けれども、狂気に満ちているのではなく、とにかくストイック。「ここで盛り上がれば良いのに!」と思わせる展開であってもひたすらに抑制的。じらされまくる方の気分にもなってもらいたいものだ。唯一ダイナミックに展開するのは最後の"Pinnacles"で、アフロビートからトライバルなハードハウスになだれ込むさまがとてつもなく心地よい。この曲について言えば、もうちょっと尺があっても良かった。
●Nathan Fake『Drowning In a Sea of Love』(2005)
弱冠22歳でドロップした典型的インドア系エレクトロ。ほんのちょっとの刺々しさと意外性、欧州の子供向け人形劇あたり?のBGMにもなりそうなキッチュなセンスに、ときには思い切って歪みまくる音像を加えるあたりが一筋縄ではいかない彼の魅力だ。
Four TetのストイックさやOrbitalのようなクールさではなくて、陽気さの中にときおり牙をむく凶暴性にぞくっとくる。最近の作品やライブもずいぶんとミニマルで大人っぽくなったけれど、このときのような青臭いくらいのポップさ・先鋭性を取り戻してほしい。
●くるり『坩堝の電圧』(2012)
スーパーカーやナンバーガールがとうの昔に解散してしまった今となっては、数少ない自分と同世代のバンドと言うこともあって、この15年間ほどずっと聞いてきた。言ってみれば青春とともにあった存在。でも、ここ数年はアルバムごとの振幅が大きすぎて、(大げさに言うと)もう袂を分かつべきときなんじゃないかと思い始めていた。その矢先に放った起死回生の大傑作。バンドの一体感と勢い、情熱全開のメロディ、叙情性にあふれた詞。聞き進めるほどに心揺さぶられてくるようなアルバムは久しぶり。やっぱり終盤の沈みきった"沈丁花"と"のぞみ1号"が最高に素敵。
●Noel Gallagher's High Flying Birds『Noel Gallagher's High Flying Birds』(2011)
ホリーズ〜ビートルズ〜The Whoから連綿と続く由緒正しいブリティッシュロックの系譜に燦然と輝く名盤。リアムには悪いがオアシス時代の『Moning Glory』以来の傑作と断言できる。他人に遠慮する必要がなくなって、自身の音楽趣味を全開に出しまくった結果が吉と出た。すべての曲がドラマチックな感動を与えてくれるし、伸びやかなノエル自身の歌声も心地よい。一本調子ではなく、抑揚に富んでいて聞き飽きない。アルバムのアレンジは少し仰々しく聞こえるときもあるが、バンド編成で臨んだフジのライブは最高だった。個人的には"If I Had a Gun..."がお気に入り。
●Owl City『Ocean Eyes』(2009)
Owl Cityはアダム・ヤングのソロプロジェクト名。フェスなどで販売されているTシャツもオウムがモチーフだったりする。メジャーデビュー作の本作は、とにかくキャッチーでドリーミーでスリークな珠玉のポップチューンが目白押し。エレクトロニカやテクノの小難しさをいっさい排除して、文字通り万人受けするポップミュージックを成立させるために電子音をいかに使いこなすかを主眼に置いてつくられたとおぼしき曲たち。ライブを聞くと歌唱力そのものは実はたいしたことないのだけど、エンターテイナーとしての力量はは確かなものがある。
●Prefuse 73『Vocal Studies + Uprock Narratives』(2001)
ライブはフェスで何度か目にしたけれど、音源はまともに聞いてこなかったPrefuse 73ことスコット・ヘレン。2012年にようやく何枚かまとめてアルバムを入手。「エレクトロニカ」のジャンルでレイ・ハラカミなどとともに同列に評価されたりもしていたけど、音的には全然違う。DJ Shadowあたりを雛形にした、サンプリングとエフェクトを駆使する“聴かせ系”ヒップホップをベースに、ブレイクビーツで要所を畳みかけるあたりが2000年代の音で、ボーズ・オブ・カナダあたりにも通じる。とくに4曲目の"Smile In Your Face"から"Point to B"を経て"Five Minutes Away"に至る展開などは超絶クール。最近の洗練された作品もいいけれど、やはり才気煥発のキレっぷりをたっぷり味わうならこのアルバム。また、この作品に限らず彼の作品のアートワークはどれも素敵。
●Rhiana『Talk That Talk』(2011)
ビヨンセのあとにリアーナあり。つくづく米国のリスナーは幸せだ。ビルボードのチャートの上位を賑わす予定調和の歌モノテクノの中にあって、アレンジそのものは似たようなものだけど圧倒的な歌唱力と声量で圧倒する。大ヒットした"We Found Love"はあえて一番最後にもってくることで、アルバムをトータルで聴かせようというという意図と自信はわかるけれど、トータルとしてみると曲調もつながりもあまりよろしくない。けれど、個々の曲のクオリティが相当に高いのでそうした不整合をものともしない。とくに"Where Have You Been"や"We All Want Love"といった純愛ソングがすばらしい。
●Gotye『Making Mirrors』(2011)
こちらも2011年から2012年にかけて米国のチャートを席巻。とくにKimbraをフィーチャリングした"Somebody That I Used To Know "が話題に。このシングル曲を聞くにつけ、個人的には正直スティング、というか中後期ポリスのフォロワー的なイメージを抱いていた。アルバムを聞くと、たしかにポリスっぽい雰囲気をたたえてはいるけれど、ソウルフルな味付けを施したオリジナリティ性もうまいことバランスさせている印象。"Eyes Wide Open"のあとの"Smoke And Mirrors"とそれにつづく"I Feel Better"なんかはファンキーかつ叙情的なモータウン調。こういうバランス感覚は、2000年代以降のアーティストならではという感じがする。
●UA『Golden Green』(2007)
手に入れたのはアルバムが出た直後だったはずだけど、その良さが分かるまでに5年もかかってしまったことがまず情けない。歌モノに回帰した本作は、デビュー直後を思わせる青っぽさと、2000年代半ばの繊細さと滋味がおそろしく高度に昇華されている。1曲めの"黄金の緑"からしてそれは実感できる。とはいえ、単に過去の焼き直しで終わらせないところが彼女のすごい所以で、いままでなかったようなロマンチックな"Paradise alley / Ginga cafe"や、"Love scene"のような新境地も垣間見せる。これらの過去と未来を見据えてつくられた曲たちを経た本作のクライマックスはまちがいなく9曲目の"Panacea"だろう。ストリングスと生ドラムと電子音、そして深いリバーブのかかったUAの声が、絹の布のような肌触りで耳元をなでる。これはライブで聞かずにはいられない。
●JAZZANOVA『All of the things』(2008)
『In Between』では、そのファンキーさとクールっぷりで、そこらのジャズ+エレクトロ系のアーティストとの格の違いを見せつけたけれど、本作ではファンキー度をさらに高め、ほとんどがヴォーカル付きのコラボ作でまとめてきた。デビュー作のような背筋がぞくぞくするような切れ味は薄まった分、ラウンジ/モンド/ボサノヴァ色が増して大人の雰囲気がつよい。とくに、"Let Me Show Ya" や、"Lucky Girl"といったPaul Randolphとのコラボでその傾向は顕著。曲ごとのつながりもよく考えられている。休日の昼下がりにコーヒーを飲みながら大きめの音量で聞くとそうとう入れ込める。
●過去の10ベスト
・2011年
・2010年
・2009年
・2008年
・2007年
・2006年
・2005年
・2004年
・2003年
・(特別企画)クリスマス特集
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